工業製品の多くは、塗装によって美化、保護、機能化されている。しかし、その材料や工法は決してきれいなものではなく、塗料は可燃性、引火性があり、毒性を持っている。高所作業が主体となる現場塗装では墜落事故の危険性があり、さび落としなどの素地調整作業では電動工具使用による事故の発生も多く、粉じんや騒音による問題の発生が多い。

 また、塗装作業が周辺住民の居住環境に影響を与えることによって第三者とトラブルが起き、時には工事中止に至る場合がある。

 塗装作業による危険性から作業者自身の安全衛生を確保すること、塗装環境を汚染から守り、周辺の居住快適性を損なうことなく工事を設計し、施工することが、これからの塗装技術者に求められる条件である。よい建築塗装とは、目的に応じてより合理的で、美しい丈夫な塗膜を作るとともに、環境にやさしく安全な塗装でなければならない。

(1)現場塗装の安全上の問題点

 建築現場、塗替え現場における塗装作業は、工場塗装(工業塗装)とは著しい相違がある。

 第一は、仮設工事の塗装では平坦な場所での作業だけではなく、床面から2m以上の高さの狭い不安定な場所での作業が大部分を占めることである(高所作業という)。

 第二は、ほかの職種の作業と同時並行的な共同作業の工事になることである。現場では上下、又は左右の隣接した環境で、異種又は同種の作業が行われている。

 第三は、仮囲いによって周辺の環境から隔離されているが絶対的なものではない。作業場発生する騒音・粉じん・悪臭は、処理を誤ると第三者とのトラブルの原因となることに配慮して行われる。

 第四は、塗装工事は工事の最終段階の仕上げ工事である。そのため工期の制約から、工事の進行によっては夜間作業の併用もあり、事故発生の要因を含むことになる。

 

(2)塗装作業の災害

 塗装作業に多い災害には次のようなものがある。

①塗料、溶剤は危険物第4類(引火性液体)に属しており、これら危険物の取り扱いのミスから起るもの。

②塗装用機械工具(さび落とし用電動工具、エアレス等の吹付け機器等)の使用上のミスによっておこるもの。

③塗料製品や塗材の保管・運搬中に起こるもの。

④高所作業で足場の不備から起るもの。工事の最終段階では、往々にして足場は欠陥を含むことが多くなることもある。

⑤落下物によって起こるもの。

⑥作業環境の整理整とんの不備から起るもの。

 以上がその大部分を占めている。また、密閉された状況の塗装では酸欠、有機溶剤による中毒などの危険があり、溶接工事との並行作業では引火、爆発事故発生の危険性がある。夏期の屋外における直射日光下の作業のように、以上環境での作業も要注意である。

 

(3)安全施工のサイクル

 建設現場では、「安全はすべてに優先する」が基本的な考え方である。元請である建設会社は、総合的に安全衛生管理計画を設定して、これを実行する。工事の遂行と工事の安全遂行を一体化し、日常の施工の中で安全管理をどのようにやっていくかを体系的に表したものが安全施工サイクルである。

 安全衛生サイクルでは一日の作業を作業前、作業時、作業終了時の三段階に分け、作業内容を分析して実行するようにしている。特に作業開始前に行うK・Yミーティング(危険予知の話し合い)は重要で、これによって当日の作業で予想される作業上の危険性をあらかじめ作業者に認識させ、事故の発生を未然に防止することを心掛けている。また、職長は作業者の体調をチェックして、体調不良が原因の事故発生を防止する責務がある。作業前の事前点検では使用する機械工具類の点検整備、作業床(足場)の確保と安全点検が大切で、作業終了時では持ち場の片づけ、整理整とんなど、作業環境を整備することはすべての職種に共通した基本となる重要作業である。特に危険物を扱う塗装作業者には必須の作業である。 

 塗替え工事では、作業職種が塗装を主としたものになるので、安全衛生に関する認識に欠ける場合が多い。しかも、墜落・落下事故は塗替え工事においても多発している。新設現場と同様、安全衛生には注意が必要である。

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