塗膜は長い年月の間に劣化し、退色・変色・はく離などの欠陥を起こし、美観・保護の機能を失う。塗替えは、これらの現象を未然に防いで、塗膜の美観・保護の機能を再生するものである。塗膜の劣化の状態を定期的に調査して、劣化の少ない時期に塗り替えるのが理想的である。塗替えに適切な時期を失えば、工事には多大の費用が必要となり、その品質も低下せざるを得ない。

 塗替え塗装の設計にあたっては、歯医者と同じで、虫歯になっている部分だけを削り取って穴埋めするか、根こそぎ抜かなければならないかを判断する必要がある。

1.塗膜の診断技術

(1)外観観察による方法

 旧塗膜の外観から塗膜の劣化度を判断する。屋外の塗膜劣化は、一般に、光沢消失→白亜化(チョーキング現象)→割れ発生→はく離と進行する。光沢が消失して、白亜化が進み、塗面にわずかに割れが観察される時期が、塗替えの最も適切な時期と判定してよい。この状態の塗膜を活膜といい、塗替えの際、除去する必要のない塗膜である。

 この時期を過ぎて、割れが全面に発生し、さらに部分的はく離が進行する時期は、既に耐用限界期であると判断される。この状態の塗膜は”生きていない塗膜”と判定され、塗替えの際、除去すべき塗膜である。

  鉄面塗装では、さびの発生度を観察して判定する。劣化の状態を外観観察のみで判断するのは確実さに欠けるので、さらに次のような方法で調査し、総合的に劣化を判定する。

 

(2)計器を用いる方法、その他の方法

 塗膜の表層強度の測定、及び下地と塗膜間の付着力の測定を行って、劣化の状態を判断する方法である。

a 引張試験機を用いる方法

0.49MPa(5kgf/)以上は、塗膜は活膜と判定する(旧塗膜は存続する)。

0.49MPa(5kgf/)未満は、塗膜を生きていないと判断する(旧塗膜を除去する)。

 

b 接着テープを用いる方法

 塗膜をカッターでクロスにカットし、その上に接着テープ(特に布製ガムテープ)を強く密着してはがす。その接着テープに付着する塗膜の程度を調べて判定する。

 

c 溶剤系シーラーを用いる方法

 塗膜に溶剤系シーラーを十分に塗布して、30分~1時間後の塗膜の状態を調べる。溶剤の影響で塗膜に軟化・ちぢみ・浮き・はく離などを生じる場合は、塗料の付着不良の原因となるので、旧塗膜は除去しなければならない。

2.塗替えの種類

 以上の調査によって、旧塗膜が存続できるか、除去すべきかが判定される。塗替えは、次の三つに分けられる。

①旧塗膜を存続させる場合

②旧塗膜を一部除去する場合

③旧塗膜を全部除去する場合

3.旧塗膜の種類と塗装系の調査

 旧塗膜を全部除去する場合は、塗替え用の塗料を自由に選択してかまわない。

 旧塗膜を存続させる場合と、一部除去する場合は、塗替えの塗装系は旧塗膜と同一系か、又はそれになじむ塗料でなければならない。

 そこで、旧塗膜の種類と塗装系の調査が必要であり、その判断を誤らないことが、塗替えの第2に要点である。しかし、被塗物の素材の種類によって、用いられた塗装系は限られるので、おおよそのことは知ることができる。旧塗膜の種類の判別に、専用の検査用薬剤を塗布して種類を見極める方法もあるが、これも完全に種類を確定できるまでには至っていない。

4.旧塗膜の処理

 はく離作業は、塗替えに不可欠である。より完全に、より安全にはく離作業を行うため、はく離の方法及び足場の種類を決めなければならない。

5.塗替えの工程

(1)一般の塗装の場合

 全面を除去した場合は、素地調整を行って、新規の塗装工程と同様に仕上げる。

 一部を除去した場合は、はがした部分を研磨後、下塗りを施す。下塗りは、合成樹脂調合ペイント塗りの場合、鉄面には錆び止め塗料を、木材面には木部下塗り用合成樹脂調合ペイントを用いる。鉄面、無機質面の塗替えでは、下塗りの選択が重要で、塗替えの第三の要点である。

 そのまま上に上塗りを施す場合もあるが、美観を主とする場合は、旧塗膜をはがした境目をP120前後の研磨紙でなるべく平滑にした後、部分的に下塗りを行う。

 凹凸を修正する必要がある場合は、パテしごきをして、見た目を美しくする。その後は、前面に中塗りを施し、さらに上塗りをする。

 

(2)吹付け材塗りの場合

a 旧塗膜を全部除去する場合

 仕上げ塗り材の選定は自由である。

b 旧塗膜を存続させる場合

 旧塗面の素地ごしらえを行って乾燥後、仕上げ塗りを施す。

c 旧塗膜を一部除去する場合

 旧塗膜と同系の吹付け材で除去した面に吹付を行い、ほかの面とパターンを合わせる。乾燥後、全面に仕上げ塗りを施す。

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