1 はけ塗り

 塗装の方法としては最も古くから行われ、現在でもなお広く利用されている。市販の塗料の大部分は、はけ塗りできるが、本来は乾燥の遅い塗料に利用する方法である。

(1)はけの持ち方

 長い間の習慣から常識的な持ち方があるが、それには次の条件が満たされていることが必要である。

①動作が自由である。

②長時間の作業にも疲れが少ない。

③取り落とすことがなく、安全な持ち方である。

④指先が汚れない。

⑤適度の力が入る。

 一般には、つか木の中心より上方を持つほどはけが不安定となり、下方を持つほどはけは安定するが、指先が汚れやすい。

 鉄塔などの高所作業での寸胴刷毛の持ち方は、取り落とすことのないように、つか木の間に中指を入れ、親指と人差し指とで輪を作るようにつか木を持つ。つまり、つか木の間に常に指の入った状態で作業する。

 筋違刷毛は、はしを持つ要領でよい。

 

(2)塗り方

 塗り方は、腕及び身体全体を十分に動かすつもりで塗り、決して手首だけの動作であってはならない。

 平らで広い面の作業順序は、塗ろうとするものの右上方より始めて、左下方で終わるようにする。横に長いものは右から塗りはじめて、左へ左へと移動する。

 調合ペイントのような、はけ目の残る塗料の場合は、塗られるものの長手の方向にはけ目を通し、はけ継ぎも目立たぬように一本に通しておく。

 

(3)棒状塗り

 はけさばきに「ならしばけ」をほとんど使わずに塗り上げる方法を棒状塗りという。単に棒塗りという場合もある。

 エナメル類、ワニス類、酒精ワニス類、ラッカー類など速乾性、又はしまりの早い塗料などにはこの棒状塗りが行われる。その要領は次のとおりである。

①ひとはけごとのとりょうの塗布量を平均にするように心がける。

②最初のうちは、はけ先に力を加えず軽く運行し、塗料の含みが少なくなってから、しだいに力を加えてはけの塗料を塗ろうとする面に移すようにする。

③塗り継ぎには、つなぎの部分で、はけの重なりをなるべく少なくする。大切なことは、はけ先にかける力の入れ方にこつがあり、それによって塗布量を平均にしていくことである。

 なお、乾燥の比較的遅い塗料などで、ムラがなく均一に仕上げるには、被塗物の塗料を縦方向に配り塗りし、直ちに横方向にムラキリ(均し塗り)し、縦方向で仕上げるムラキリ塗りがある。

 

(4)利点と欠点

(a)利点

①作業人員の増減に応じて、はけ数さえ準備すれば作業に即応することができる。

②危機の塗装に比較して経費が安い。

(b)欠点

①はけそのものが消耗品である。

②熟練度が極端に現れ、仕上がり結果に差を生じやすい。

③速乾性の塗料の塗装には適さない。

④調合ペイントなどでははけ目が残る。

⑤機器の塗装に比較して一般に能率が劣る。

2 ローラーブラシ塗り
1.2 ローラーブラシ塗り

 昭和30年頃アメリカからローラーブラシが導入され、塗装工具として国産化されたことから試みられるようになった塗装方法で、最初は船舶の塗装に利用されていたが、その後建築塗装にも急速に普及し、広い面積を塗り場合には、欠くことのできない塗装方法となった。

(1)ローラーブラシの持ち方

 本来は自由であるが、一般に次のことが指摘できる。

①保持したローラーブラシが安定している。

②塗ろうとする面にローラーブラシを押し付けるための、必要な力が加えやすい。

③長時間の作業にも疲れが少ない。

 以上のことから4本の指でハンドルを握り、親指はハンドルの上端にかけて、上からハンドルを押さえるような持ち方となるのがよい。ローラーブラシは塗装中の塗面に圧着することが必要となるが、この持ち方は、力をいれたり抜いたりするのに便利である。

(2)塗り方

 塗料を塗り広げるときは、ローラーを転がしながら位置を移動していく関係で、W字形に運行し、はじめは軽く、塗料の含みが少なくなるにつれてローラーに力を加え圧着させながら、含んだ塗料を押し出すようにする。次の返し塗りは、塗料を含ませた最初のローラーを前回とは反対側から塗りはじめて、前回の塗り始め位置で終わるようにする。このW字形の塗付けの長さをおおむね一定に保って作業を進めていくと、塗料の塗付け量が平均しやすい。このあと、直ちに仕上げるためにむらを切り直すとよい。

 塗付け面積は、塗料の乾燥速度や吸込みの状態に応じて適切な広さで行う。なお、塗料の種別によっては、必ずしもW字形の配分をせず、直ちに棒状塗りで仕上げることも必要である。

 ローラーブラシは、転がしながら「押しつける」ことになる。

(3)仕上げの方法

 仕上げの方法にも、一人で塗付けから仕上げまでを行う場合と、繊維が長くて塗料の含みのよいローラーで、一人が塗付けのみを行い、別の一人が繊維の短いローラーで、むら切りだけを行って、ローラーマークをそろえて仕上げて行く併用方法なども行われる。仕上げのむら切りは、ローラーの回転方向を一定にして、ローラーマークのむらや重なりを目立たせないことが重要である。はけ塗りでは、長柄の使用が困難であったが、ローラーブラシ塗りでは楽に使用できるので、これを活用すると足場の省略ができて、作業能率の向上に役立つ。

(4)塗面の状態

 塗面仕上がり状態は、ローラーブラシの繊維の長短や合成樹脂スポンジなどの材質の違いで変わってくる。いずれの種類の場合も共通していることは、塗面が波状化、又は、凹凸状にローラーマークの散在した状態となることである。つまり、凸部は塗料がよって盛り上がった状態となり、凹部はそのため塗膜が薄くなる。しがたって、ローラーブラシ塗りでは、隠ぺい力(かぶり)のよい塗料を使用しないと、凹部で塗膜のすけが目立つので仕上がり感が悪くなる。ローラーマークのたちかたは、使用するローラーブラシの種類によってさまざまであるが、同じものを使用した場合は、塗料の粘度(こみ)と塗付け量の違いが、ローラーマークのたち具合に影響する。

(5)利点と欠点

(a)利点

①はけよりローラーの幅が広いので、平坦で広い面積を塗ると作業能率がよい。

②塗り作業は、はけ塗りほど熟練するのに永い年月を必要としない。

(b)欠点

①ローラーでは壁面などの隅が塗れないので補助具が必要である。

②使用後のローラーの洗浄には、はけよりも手間がかかる。

3 たんぽずり

 クリヤラッカーのような速乾性の塗料を用いて、家具や木工塗装で、塗り終わったあとの塗装面に残るはけ目を消して平滑な面を得るために行う工法である。熟練を要する作業であるが、最近はポリッシングコンパウンドを利用して、少し慣れれば、だれもが一様にみがき仕上げができるので、たんぽずりは以前ほど行われなくなった。

(1)すりこみ準備

 まず、15cm~20cm角くらいのカナキンか、木綿の布の中に一握りくらいの綿を入れて、少し弾力があるくらいに包んで、たんぽを作る。

(2)すりこみ要領

 塗料を5~6倍に薄めて、初めのうちは塗装面を螺旋状に回しずりをしながら、最後に木目に沿って仕上げずりを行う。

4 浸漬塗り

 塗料の中に直接塗るものを浸して引き上げるので、俗に「じゃぶづけ」とか「つけ塗り」などとも呼ばれる。

 同一の品物を数多く塗る場合の工法で、工場の製品塗装に用いられているが、建築の現場塗装にはほとんど必要がない。

(1)方法

 塗ろうとするものを一定の短い時間沈めておき、すみずみまで十分塗料をいきわたらせてから引き上げる。余分の塗料は自重と流動性のために下方に流れ、平らな塗装面を作る。特に塗り方などというものはないので、未熟練者でも少し慣れればできるようになる。大切なのは、塗料条件の調整である。

(2)塗料の条件

 塗料はたれ切れがよく上方と下方の塗膜が均等な厚さになり、最下部の塗料のたまりを、はけでぬぐう必要のないほど塗料が調整しやすいことと、長時間同じ塗料を使用しても、その間の溶剤の蒸発などによる粘度変化の調整が行いやすいことなどが必要である。

(3)利点と欠点

 (a)利点

①技能的な熟練が必要である。

②塗料のむだがない。

③設備をすると、それ以上の費用が不要である。

④全面を一度に塗ることができる。

⑤厚膜塗膜が得られる。

 (b)欠点

①塗らない部分には養生が必要となる。

②塗料の粘度調整をして、条件を決定するまでに時間がかかる。

③同系のものを大量に塗装するのでないと不経済である。

④乾燥炉を併用した流れ作業でないと効果的でない。

⑤速乾性の塗料には多くの場合不適当である。

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