1.塗装の目的と役割

 建築物塗装の主目的は、建物の保護と美観である。塗料は、被塗物の表面に塗り広げられて、乾燥固化して連続した皮膜を形成する。この皮膜を塗膜という。塗膜のもつ性能は、保護や美観、そして、いろいろな機能として発揮される。

 また、塗装によって得られる色は、機能配色として、生活環境の調整・仕事の能率増進、安全への働きかけ、商品価値の向上など、多くの面で活用されている。

 建築工法の発展は、高層化とプレハブ化に象徴される。現在では、各種の新建材が出現し、その仕上げ方法も多様化している。

 最近では、保護・美観のほかに、被塗物の表面にいろいろな機能を与える塗料が開発されている。この種の塗料を、一般に特殊機能性塗料と呼ぶ。同時に、工法や塗装機器の開発も進められて、建築物の塗装は、時代のニーズの変化に応じて新しい展開がなされている。

2.建築塗装の分類

 建築物の塗装を大別すると、一般の塗装と特殊な条件の塗装に分けることができる。

 現場で使用される塗料の種類は多く、焼き付け塗料以外のほとんどの塗料が用いられている。

 それらの塗料は、日常使用されるものについて標準の塗装仕様が決められており、塗装方法も普及している。つまり、建築工事に常に付随する塗装を、一般の塗装と考えることができる。

 これに対して、塗られるものの性質や周囲の環境など、現場の特殊な目的に応じて条件や性能を必要とする場合は、当然それに適した塗料を選んだ塗装が行われる。

 このような塗装を特殊塗装などと呼ぶこともあるが、多くの場合は塗料の性能の違いであって、塗装の方法が特別違ったものであることは少ない。

3.建築物の塗装と他工事との関連性

 建築物の塗装は、被塗物である建物のある場所で行われる。その作業場所を一般に現場と呼ぶ。

 新築工事の現場では、関連する様々な職種の作業が行われるが、塗装工事は、最終仕上げの工事の一つである。

 現場での作業は、あらかじめ計画・設計された施工工程表に基づいて進められているが、気象条件やその他の制約から遅れがちである。また、木工・左官工事など関連職種の技術上の欠陥は、塗装の妨げとなることが多い。

 このように、建築物の塗装(現場塗装)は、人為・気象・工期・経済上の制約を受けながら行われることが多い。

4.建築塗装の設計

 塗装によって、保護・美観の目的が達成されるが、そこには、当然、塗装経費と耐久性の要求限度があり、これを無視することはできない。

 今日では、外装仕上げは高度の耐久性をもたなければならない、という考え方が定着しているが、予算及び工期の不足が理由となり、それに十分こたえられないこともある。

 現場塗装では、塗装対象物の種類も多く、素材はさらに多様化する傾向にあるが、基本的には、鉄部、木質系、セメント系(せっこうボード含む)に大別できる。それぞれの素材に応じて素地調整、下地調整、塗り仕上げがなされる。社団法人日本建築学会が定めた『建築工事標準仕様書・同解説18 塗装工事』(JASS 18)には塗装工事の標準仕様が示されている。

 塗装設計を行うためには、必要な情報を収集しておかなければならない。必要な情報を整理すると、次に示す七つの要因になる。

  ①被塗物の種類と性質・構造・形状(木材面・金属面・無機質面・その他)

  ②被塗物の置かれている条件(設置の位置・状態・環境・気象条件)

  ③被塗物の表面の状態

  ④使用する塗料の種類・性質・塗装条件

  ⑤素地調整作業に関する条件

  ⑥塗装工事費及び工期

  ⑦要求される塗装効果の耐久性

 これらの要因が相互に関係してくるので塗装設計は複雑になるが、重要な点は、上記要因のうち⑥と⑦の関係をしっかり体得しておくことである。無駄をなくす合理的な考え方が特に重要で、要求されている塗装効果とは何かを明らかにし、最小限の経費で施工することが大切である。例えば、土中に埋め込む鋼管を塗装する場合、防食が主目的になるため、付着性と耐水性のよいエポキシ樹脂系の塗料を選択すればよく、美観にこだわる必要なない。

5.建築塗装の標準仕様書

 建築物の塗装工事の指針として利用できる標準塗装仕様書には、次のようなものがある。

 ①JASS 18 塗装工事、JASS 23 吹付け工事

   日本建築学会が定めた標準仕様書である。

 ②国土交通省公共建築工事標準仕様書(建築工事編)第18章 塗装工事

 ③民間の設計事務所・建設会社の設計部門が適宜定めた仕様書     など

6.塗装の要点

 塗装上、守るべき基本的な要点を次に挙げる。

(1)素地調整作業をおろそかにしない

 現場塗装で発生する塗膜欠陥の多くは、素地調整不足が原因となっている。素地調整作業は、塗装作業の最も大切な基礎の工程である。

(2)塗料の品質を良く調べて、正しい使用方法で作業を行う

 特に高性能化した塗料は、許される使用条件の幅が狭い。2液形の塗料を使用するときは、配合の比率を正確に守り、計量・混合作業を確実に行うことが大切で、シンナーは必ずメーカー指定のものを使用する。

(3)塗料の乾燥機構を理解して塗装を行う

 希望する性能の塗膜を得るためには、乾燥機構に適合する条件を守ることが大切である。例えば5℃以下では、エマルションペイントは完全な塗膜を形成しにくく、エポキシ系の塗料は反応が停止して乾燥が極端に遅れる。また、塗り重ねに際して過度の乾燥や観測不足は、作業に支障を来し、層間はく離、はがれ、ちぢみ、割れなどの欠陥を起こすことがある。

(4)低温・多湿下の塗装を避ける

 水分は塗膜の付着力低下の最大の原因である。JIS K 5600-1-6:1999「塗料の一般試験方法―第1部:通則―第6節:養生並びに試験の温度及び湿度」に定める標準乾燥条件は、温度23±2℃、相対湿度50±5%となっている。標準乾燥条件から大きく離れる環境での塗装作業には、注意を要する。すなわち、エマルションペイントや化学反応を伴う2液形ポリウレタン樹脂系塗料を使用する場合、5℃以下、又は結露しそうな高湿度下では塗装作業を行わないこと。

(5)塗料は十分にかき混ぜ、ろ過して使用する

 この作業を怠ったために、色違い、色むら、つやむら、ぶつなどの塗膜欠陥が発生することが多い。

(6)塗装用工具類は常に整備しておく

 使用する塗料の性質にあった塗装用具で塗装する。

(7)作業環境に対する配慮を行う

 じんあい、塩分の付着(海岸地帯)などの自然現象が、塗膜のはく離やさび発生の障害を引き起こすことが多い。また、市街地では塗装作業で発生する騒音に気を付けたり、吹付け塗膜時に発生する塗料の噴霧粒子が駐車中の車などに付着することがあるので、車に保護フィルムをかぶせたり、建築物の養生を十分に行うことが大切である。

▲このページのトップに戻る